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【フリーランスならではの嗅覚】カメラマンQuwaaanインタビュー後編

Seiji Horiguchi

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【フリーランスならではの嗅覚】カメラマンQuwaaanインタビュー後編

Seiji Horiguchi

アパレルのスタッフ時代を経て、カメラ一本で生きることを30代後半で決意したQuwaaan。独学で技術を磨き、今では、車、化粧品、靴のブランドといった幅広いジャンルの写真を撮るに至った彼の仕事は、具体的にどんな様子なんだろう?日々の仕事に対する姿勢について、さらに掘り下げて聞いてみた。

◉前編の記事はこちら 【写真を生業にするということ】カメラマンQuwaaanインタビュー前編


チャンスを掴むための嗅覚。些細なきっかけで繋がる世界。

Clarksの展示会

―独立してカメラマンとして仕事をするなかで、どんな気づきがありましたか?

Quwaaan : いわゆる技術を上げることも重要やけど、チャンスをものにする力も絶対必要。これはカメラに限らず、クリエイターを目指す人みんなに共通するよね。それから時代の移り変わりに敏感であることも大事だと思う。結局1人でやってる人間は、次にどうしたら良いのかを自分で考えて動かないといけないわけで。そういう意味では、みんな東京に行った方がいいと思う。自分も仕事で定期的に東京に行くけど、やっぱりスピードが全然違う。もちろん東京に行くことで自分がいる場所とか街の良さを再発見することもあるけどね。さっきも言ったように、東京で割と有名なカメラマンも全員が高い技術を持ってるわけじゃない。それでも東京って仕事に繋がるようなチャンスが圧倒的に多いし、そのチャンスを掴むための嗅覚が鋭い人が多い。

―東京の情報の早さは、編集をやっていても痛感するところです。

Quwaaan : あとはクライアントからの無茶な要望にいかに応えるかもあるよね(笑)

―PAのHIDEKIさんへのインタビューでもまったく同じことをおっしゃっていました(笑) 。それでも「1回やってみます」と応じてみるという姿勢だそうです。

【本質はどこだ!!】PAってどんな仕事?-HIDEKIロングインタビュー後編

Quwaaan : どの業界もあるよね(笑) 。俺らプロは、注文された内容でやったらどうなるか、ある程度イメージできるわけやん?でもそれを言葉で伝えても、カメラやってない人には想像しにくい。だったら1回やってみた結果を見せて理解してもらう。特にカメラの仕事は仕上がりが目で見えるから、例えばAパターンでの結果を見てもらって「なるほど。じゃあBパターンの方がいいですね」って判断してもらう。

―かなりの労力を必要としますよね。

Quwaaan : 納得できる仕事するには必要やね。あとはインスタが流行りだしてからは、要求される見た目のハードルも高くなった。いろんなカメラマンの写真がパッと見れて比較できるからさ。「ああいう仕上がりが良い」っていう注文に対して、どの程度のクオリティを提供するかも重要だと思う。そのクオリティを生むのが機材なのか技術なのかはいろいろあるけど、自分はできるだけ技術で埋めたいと思う。

REGAL SHOESの物撮り

― 現場によって求められる仕上がりが違うというのが特殊ですよね。

Quwaaan : その一方で、長く続いてるクライアントからは「好きにやって!」って言われることも多いよ(笑) 無理にルールとか縛りを決めても変になるのをわかってくれてる。そうやって自分のスタイルとか感覚を理解してくれる人と仕事するのが一番はかどるし、仕事に対して納得もできる。自分の場合は、それがたまたま大きい会社の人が多かったんよ。でもそれも結局横のつながりで繋がった人たちやね。DJの友達の現場で俺が飾ってた写真を、ある企業の人が見て「良い」と思ってくれて仕事に繋がったり。

―本当に些細なきっかけですね。

Quwaaan : 何が起こるか分からないからこそ、スケジュール的にいけそうな仕事は、初めてでも一回は絶対やってみるようにしてます。もちろん苦手な分野もあるけど、一回トライしてみないと良いか悪いかが分からないからね。でも繋がっていくのって本当に些細なことがきっかけなことが多い。

―そこはライターとしても、とても共感するところです。

Quwaaan : さっき「40歳になるまでに形にならなかったら辞めるって決めてた」って話したけど、それを決めると「ここまでにこれができた方がいい・こうしてたい」っていう逆算ができるようになる。これがないと自分が決めた目標には達しないと思う。それにどこまで通用するかどうかも自分次第で。だからこそ俺は東京の仕事を増やした。その結果仕事も繋がってるし、そのつてがまた別の仕事にも繋がっていくと思うし。

カメラマンってどんなライフサイクル?

―最後に、現在のQuwaaanさんの1日のスケジュールがどんな流れなのか知りたいです。

Quwaaan : まったく決まってない!その時々でほんまにバラバラやね。例えば朝から数件取材行って、帰って編集したり子どもの世話したり。仕事があるときはそういう流れの日もあるけど、仕事が入ってない時は何もしてない。いつ仕事が入ってくるかわからない仕事やし、基本的にはクライアントワークで仕事が成り立ってるから「ノー」って言いにくい。

―急に連絡がきて「明日いける?」みたいなこともあるんですか?

Quwaaan : さすがに最近はスケジュール的に次の日の仕事の話を受けることはないけど、面白そうな案件だったら受けることもあるね。だから3週間まるっと仕事で埋まることもあれば、逆に1週間くらいぽっかり空くこともある。自分次第で決められるから、「このくらいの拘束時間でこのくらいのギャラです」と提示された依頼に対して、自分の生活サイクルに合うようだったら受ける。

―休みも決まっていないわけですね。

Quwaaan : 基本的に自分で「この日は休む!」って決めない限り、休みはほぼ発生しないね。でも、こないだ知り合いのカメラマンと「俺らって趣味がカメラやから逃げられないよね」って話になった(笑) 。遊びに行ったりしても結局カメラ持ってるしさ。プライベートにしても仕事にしても、一生カメラのことが頭から離れない人間なんやろなって。

―カメラマンならではの性(さが)ですね(笑)。 仕事で撮りまくって「今日はもうさすがに撮りたくない!」となる日はない?

Quwaaan : たまにあるけど、地方に行くときなんかは結局「カメラ持ってこ」ってなるんよ(笑) 。これはもう、これからもずっとそうだと思う。今度、北海道に行って、向こうに住んでる友達と釣りに行くんやけど、そうなると普段はめったに見れない世界に行くわけやん?そんなんカメラ持つしかないよね(笑)。


あとがき

彼の独立後の話のなかで「些細なきっかけで(仕事に)繋がった」とあったが、これはなにも「運良く仕事が転がり込んできた」わけではない。ライティングの研究といった独学での技術習得や、それまで培ってきた人間関係があって初めてチャンスに繋がったという点が重要ではないだろうか。そういう意味でフリーランスの道は、険しいものだと再確認する。ただ、ここで前向きなポイントを挙げるなら、カメラの腕で家族を養うQuwaaan氏も、はじめは趣味からスタートしたということだ。インタビュー中、カメラの世界の厳しさにたびたび言及した彼だが、その一方で「休みの日も結局カメラ持ってしまうよね(笑)」と、時折覗かせるピュアな一面も印象的だった。好きなことを仕事にすることは過酷だし、生活していく以上本意ではない行動に迫られることもあるが「やりたいからやってる」と、無邪気な自分に立ち返る瞬間は誰にとっても必要だろう。


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Seiji Horiguchi

大阪在住のライター。信州大学人文学部卒。新聞記者を志す学生時代を経て、現在はダンススタジオのマネジメントに携わりながら、フリーランスのライター/編集者として、関西のストリートカルチャー中心にアーティストインタビュー・ライブレポ・ライナーノートなどの執筆を行う。 2020年には、ストリート界隈の声や感情を届けるメディア「草ノ根」を立ち上げ、ZINEの制作を行う。2022年からは、ウェブメディア「GOOD ERROR MAGAZINE」にもライターとして所属。好きなラジオは『ハライチのターン』『コテンラジオ』『問わず語りの神田伯山』。

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