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【本質はどこだ!!】PA HIDEKIインタビュー - 後編

Seiji Horiguchi

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【本質はどこだ!!】PA HIDEKIインタビュー - 後編

Seiji Horiguchi

[職業紹介インタビュー]  HIDEKI(CLUB PA/音響オペレーター )

前編はこちら(リンク)

PAの耳?アーティストの耳?誰の感覚が正解?

―それにしても、普段PAの方とゆっくり話す機会もないので面白いですね。正直いうと話しかけづらい空気の方もいて…(笑)

HIDEKI : PAの人らって「PAだけで分かってればいい」っていう風潮がどっかにあってね(笑) 例えば演奏者が「この音、変だと思うんですけど」って相談したとしても「音のことなんも知らん奴が何言ってんねん!」って跳ね返してしまうんですよ。いろんな業界であるあるだと思うけど、専門的な人ほどそういう癖がある。ただ、えらそうに言ってるけど、僕もそうなる時ありますけどね(笑) DJから「すみません!モニターの音あげてください!」って言われても「いやいや、これでええやん...」ってつい思ってしまう。

―気持ちは分かります。毎日音を聞いているPAの感覚の方が正しそうだなと、なんとなく僕も思います。

HIDEKI : 最近は、20代前半のアイドルの現場とかも担当するんやけど「ほんまにこの子たちが望むことをやってあげれてるんかな?」ってよく思っていて。もちろん理論と経験は僕らPAの方があるかもしれんけど「この設定で大丈夫やから!」と頑固なPAになって、アーティストの子らを突き放してないかなって。

―年齢やキャリアに関係なくアーティストに寄り添うことも必要だと。

HIDEKI : ただ一方で、ある程度PAとして「自分の音の出し方はこう」とか「この箱はここまでしか音を出せない」というラインを固めてた方がいいっていうのもある。リクエストに応えてばかりいたら音がブレるからね。コーヒーで例えると、豆にこだわって丁寧にコーヒーを淹れたとしても、お客さんからの「砂糖とミルク、もっと入れて!」っていう注文に次々応えていってたら、それってもうもともとのコーヒー豆の味はしなくなるよね(笑)

―わかりやすい!(笑) でもそのバランスは本当に難しそうですね。ある程度の一貫性も必要ですし、“頑固親父”にもなりすぎず、という逆説的な姿勢ですね。

HIDEKI : そうなんです。だから「機材の扱い方は知ってるけど、あなた(アーティスト)のベストは知らないから教えてください。それに対して寄り添えるように頑張ってみます!」というスタンスがPAの理想じゃないかな。

逸脱こそ新たなスタイルの母。ラインを守るPAと"はみ出る"アーティスト。

HIDEKI : ただ一方でPAのラインからはみ出たときに面白いことが起こることもあってね。「このクラブのこのスピーカーで出る音の適性はこれくらい」っていう上限があったとしても、酔っ払ったDJが音を限界よりも上げてるときがよくあってね。もちろん機材が傷むからPA的にはやめてほしいけど、朝方4時くらいで、フロアに酔っ払いばっかりいる状態で爆音のなかめちゃくちゃ盛り上がってる時、オープンからの流れをずっと見てる僕からしたら「あれ。この状態が意外と正解かも…」ってなる時もあってね(笑) そうなるとDJが音をめちゃめちゃに上げるのも、一概にダメとは言えないよなあって。

―興味深いですね!それはDJイベントならではの現象なんでしょうか?

HIDEKI : いや、ライブハウスでもありますね。ギターとかも「オーバードライブ」とか「ディストーション」っていうわざと歪(ひず)んだ音を出すエフェクト技術があってね。あれってROCKが始まる前はなかったと思うんです。普通、音を歪ませたらスピーカーって飛ぶからね。「クリーン」「リバーブ」なんかは昔からあったけど、“歪み系”ってROCKが作ったエフェクトだと思う。ギターの音をアホほどあげて「割れてる音ってかっこいい!!」って言った人がいて、次はわざとその音を出すようなエフェクトを作ったっていう異例の流れやんね。それまではダメだったことが、アーティストが無茶することで「意外といいね」ってなることってよくあると思う。PAサイドは常に保守的だけど、無茶をやる人のおかげでそういうミラクルが起きるんですよね。

―アーティストの逸脱が新しい音楽を作るという。

HIDEKI : もちろん僕らPAサイドは「上げすぎやろこいつ…!!」って思いながらやってるけどね(笑) ただその場全体の空気感が成立してるのを見てしまうと、一概に「これが正しい」って言いにくくてね。僕は性格的に敷かれたレールの上を真面目に歩きたい人やねんけど、僕みたいな人間は逸脱した発想は思い浮かばないんよ(笑) でもそういう発想ができるプレイヤーに乗っかることはできる。つまり、0から1を生み出すことはできないけど、1を100に持っていく自信はある。そうやってアーティストに寄り添うのも、時には必要かなって思います。

若い世代の現場には入れない?ベテランPAのこれから。

―僕はHIDEKIさんとダンス&ボーカル(以下:アイドル)のライブの現場でもご一緒することが多いですが、クラブの音作りとアイドルのライブでの音作りは違うものなんですか?

HIDEKI : かなり違うと思う。アイドルは前提として「パフォーマンス重視」というか、ビジュアルも含めて彼らがステージで輝いているのを見るのが、ファンの目的ですよね。ラッパーがクラブでライブする時は「マイクの声をしっかり聞き取ってもらえるように」とかあるけど、アイドルの方は、結局トラックにアカペラが入ってても別に良いわけです。マイク1つとっても、ラッパーの場合は音さえきちんと出ればマイクの色が黒だろうが白だろうが問題ないかもしれない。一方でアイドルは音が出ることもやけど、「この子は絶対にこの色!!」っていうルールがあったりしますよね。ビジュアルが命だから。ただ、そうなると「じゃあマイクの音を全部切っとけば?」って発想になりそうだけど、ライブ中にお客さんに「みんな元気!?」って聞くときもあるよね。その時のためにマイクの音は出てないといけないし、その音もトラックの音より大きすぎても小さすぎてもダメ。二の次ではあるけど適当というわけでもない。そのバランスが独特ですね。

―難しいですね。そういうこともやっていくなかで分かっていったんですか?

HIDEKI : そう。ライブに携わらせてもらって、向こうからの注文をいろいろと聞いているうちにね。やり始めた当初は僕も「トラックに声が入ってるのなんか邪道やな」って思ってたけど、やっていくうちに考えも変わりました。なんだったらラッパーに対しても「こんなに下手なら初めからトラックに声が入ってる方がライブとして成立するのでは?」とすら思うようになってきた。良い悪いは置いておいて、最近はトラックに声が入っているアーティストも増えましたよね。昔みたいに地声をしっかり届けるっていう方法が全てではなくなってきた感じがする。

―少しずつ変わってきてるんでしょうね。

HIDEKI : あとは「あのアイドルが口パクだったからダメ」みたいな話題ってよくあるけど、じゃあダンスパートもしっかり見せたいグループがいたとして、激しく踊る時に息の音が「ハアハア」って入ったらライブの邪魔になるんじゃないのか、という問題もあります。だからどっちが良いかって難しい問題ですよね。ただどこに価値を求めるかというと、アイドルを応援してるお客さんが満足することが目標だとは思います。でも多くのPAは「自分が納得する音を出せるかどうか」が目標になりがちです。

―先ほどの“頑固PA”の話にも通じますね。

HIDEKI : もっと言うと、40代の自分が二十歳くらいの子たちの現場のオペレーションをすべきじゃないかも...とすら思ってて。例えばHIPHOPのクラブってDJもMCもお客も二十代ばっかりの時があるんですよ。そうなると僕ら世代のPAとは、通ってきた音楽も文化も違うし、音の聞こえ方も絶対違う。そうやって違う感性を持つ子たちが満足するような音に近づけるのって難しいんじゃないかなあって思うんです。だから本来は若い現場のオペレーターは若い世代がやるべきなんですよ。もちろん長くやってるPAは、知識や経験で補える部分もあるけど、感覚の部分では叶わないし、さっきの「音上げすぎた結果良い感じになってる」とかも、そのプレイヤーの感覚を理解してあげられる年齢の人がやった方がいいと思うんです。そうなると「PAはある程度の年齢いったらできないのか」って話になるけどね(笑) だから、これから自分はどうあるべきかを考えています。今の年齢のPAとしての価値も示せるようにしたいですね。


長いキャリアと確かな腕を持ちながら、自身の立場を"素人代表"と表現するHIDEKIの姿勢が興味深かった今回のインタビュー。しかしそのスタンスが彼の柔軟性を生み出し、その柔軟性こそが彼がアイドルのライブから野外フェス、ダンススタジオの発表会まで、さまざまなジャンルの現場から引っ張りだこになっている秘訣なのかもしれない。今後、音楽イベントに行くときは、PAの挙動や機材の調子にもより一層フォーカスして楽しんでみては?

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Seiji Horiguchi

大阪在住のライター。信州大学人文学部卒。新聞記者を志す学生時代を経て、現在はダンススタジオのマネジメントに携わりながら、フリーランスのライター/編集者として、関西のストリートカルチャー中心にアーティストインタビュー・ライブレポ・ライナーノートなどの執筆を行う。 2020年には、ストリート界隈の声や感情を届けるメディア「草ノ根」を立ち上げ、ZINEの制作を行う。2022年からは、ウェブメディア「GOOD ERROR MAGAZINE」にもライターとして所属。好きなラジオは『ハライチのターン』『コテンラジオ』『問わず語りの神田伯山』。

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